其の一

書籍レビュー
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こっから本編 連投:其の一

身体が逆境を記憶していることは知られてきました。著者はそこからさらに踏み込んで、記憶は状態に依存していると述べています。

で、ここでデルタ波について紹介します。この周波数は名前が付いている周波数の中で一番低く、成人では通常眠っているときに多くなります。成人では、と書きましたが、子ども、とくに赤ちゃんにはこの周波数の脳波がとても多いのです。それはきっと脳や心身の成長を促すためでしょう。

このデルタ波が成人にもかかわらず非常にたくさん検出される一群があって、それは小児期に逆境を経験した人たちのようです。著者が言うように、もし記憶が状態に依存しているならば、通常ならごく小さいころに見られる脳波が大人になって頻出することに説明がつきます。

小児期に逆境を体験した人の脳波は、デルタ波のような低覚醒のものと過覚醒を意味する非常に高い周波数の脳波とが同時に高値を示すことがあります。(こうした人々はうつ病やパーソナリティー障害、発達障害と呼ばれていることもあります)

一般的にニューロフィードバックトレーニングの開始直後は、その中間にあたる“リラックス”や“集中”を担当している周波数にチューニングします。でもそれは、本物の“リラックス”や“集中”を知らず、ブレーキとアクセルを同時に踏みながら生きてきた人々の車にターボエンジンを積むようなものです。この人たちの脳が学ぶべきは、各周波数の脳波の増強ではなく恐怖を収めていくことなのです。

トラウマ反応が未完了の“状態”にアクセスするには、身体からだけではなく(通常の記憶とトラウマ記憶は全く別物なので言葉や思考は入り口にならない)、脳波という切り口から近づく道があるのはそうした理由からでしょう。フラッシュバックの危険性と共にニューロフィードバックやマインドフルネス瞑想が語られてきたことについても、それで説明が付きます。

ただし、このデルタ波には近年になってようやくその重要性が認識され始めたグリアと呼ばれる膠細胞の活動が含まれていて、しかもグリアはほとんど電気活動を行わないため、実態はいまだに謎に包まれています。

また、この本が上梓されたのは2014年であり、小児期逆境体験によって左右の脳半球の活動が逆転する現象についてはページが割かれていますが、脳の前部後部の逆転現象については言及がありません(知見が積み重なっていないので触れない、と書かれています)。 また、この本の上梓から2年後にVander Kolkプロトコルが開発され実験が行われましたが、無論、そのことについての言及もありません。 グリアを含め様々の知見が積み重なることで、今後の精神疾患やPTSDに対するアプローチが大きく発展してくれることに期待したいものです。

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