5月に放送されたヒューマニエンス【家畜】をテーマにした回を見たのですが。これがもう、なんとも考えさせられる番組でした。https://www.nhk-ondemand.jp/goods/G2022120496SA000/
一般的に家畜に共通して見られる特徴として、①メラニンの低下で体色が白っぽくなる、②攻撃性が低下する、③密集した場にストレスを感じにくくなる、という3点が挙げられるそうです。これらは家畜化症候群と呼ばれ、それら一見バラバラな現象を束ねる要因として神経堤細胞仮説が提唱されているようです。
神経堤細胞とは、色素細胞(メラニン)、頭蓋骨(顎や骨)、副腎(コルチゾールを作る)に関わる細胞だそうで、分化が遅くなるとその影響力が小さくなり、家畜化症候群を起こすのではないか、と考えられているようです。
それゆえにか、家畜は、白っぽい体色になり、ストレスレベルが低下、攻撃性が低下、社会性が向上、警戒心が低下、副腎ホルモンの分泌が低下、歯や顎の骨が細く丸くなり、コミュニケーション能力が向上。ストレスレベルが低下することで、神経堤細胞による脳の傷害が減少、前頭前野の神経細胞が増殖して行動のレパートリーが増える(言語など)。遺伝子が外的刺激に脆弱になり、変異を起こしやすくなる。それにより、多様な個体を展開しやすくなると同時に、飼い主にとってより使い勝手のいい個体を選別することもできるようになる。・・・といったことが起きるのだそうです。
しかも、私たち人類は自分たちをも家畜化しているのだそうです。
私がこの自己家畜化を恐ろしいと感じたところは、現在私たちが直面している数々の問題は進化の賜物かも知れないということ、神経堤細胞が減少を続ける限り、その進化は止まらないかも知れないということです。
たとえば、様々な疾患の原因となるコルチゾールの分泌が減るというのは一見すると良いことのようですが、軽微なストレスならともかく、慢性的にストレスに晒された場合には低値のほうが問題になります。コルチゾールはさっと出てさっと効いてさっと止まってこそ意味があるのであって、低分泌状態が固着してしまうということは、免疫力やストレス耐性が著しく低下してくるということでもあるのではないでしょうか。
加えて、番組では自己家畜化にはオキシトシンが一役買った可能性が指摘されていました。絆ホルモンとも呼ばれるオキシトシンは、内集団(身内、味方、仲間、同じ属性など)に対して【のみ】愛情や絆を惹起して、その輪の外の個体には強い敵意を惹起させるホルモンです。つまり、オキシトシンの分泌が亢進するということは、例えば異性や他国の人などを内集団であると考えられない限り、たちどころに外集団として攻撃の対象と見なしてしまう可能性があるということでしょう。
それでなくても男性のテストステロンは急激に減少していて、今後も筋肉質で好戦的な男性は減っていくと見込まれているようです。男女ともに中性化が進み、イデオロギーや信条とは全く別の次元で待った無しの変化と対応と適応を求められているわけです。
つまるところ現代人は、生きるか死ぬかの危機が減ったために神経堤細胞が減少している、一方で、人生の質に悩むというストレスの毒性には脆弱になってゆくのかも知れません。(私見。)
社会性の向上は周囲との協調を意味しますが、それは強力な同調圧力や過剰適応と紙一重に見えます。その影響なのか、トラウマセラピーが進んでいけば健康的な怒りや衝動が出てくるものと思っていましたが、そうしたプロセスを飛ばして軽快していく方が一定数いらっしゃるように感じています。もしかすると、凍りつきの時代を招いたのは、トラウマだけの問題というより、進化的に避け難い結果なのかも知れません。(完全なる私見。)
(自己家畜化をちらりと調べると、ブルーメンバッハやフロイトまで遡れるようでした。でもその中身はまちまちで、それも興味深いところです。結局、因果関係が認められるのか、相関でしかないのか、私では力不足で分かりませんでした。)