セラピストは何を観るか──SIBAMのBehaviorを捉え直す

SIBAMの5要素(sensation・image・affect・behavior・meaning)の概念図を2人のセラピストが見つめるイメージイラスト 身体指向の心理療法

先日、福岡伸一の『生物と無生物のあいだ』を読んでいました。その中に、「学生時代、先輩の助言を得てBehaviorをふるまいと訳した」、という記述を見つけました。

Behavior。
私たちソマティックエクスペリエンシング®のプラクティショナーとしては、捨て置けない言葉です。

ここで、ソマティックエクスペリエンシング®におけるbehaviorとは何かをお伝えしておきましょう。
ソマティックエクスペリエンシング®には、SIBAMという概念があります。これは Sensation、Image、Affect、Behavior、Meaning の頭文字を並べたもので、人間の体験を五つの側面から整理したものです。多くのSE™セッションは、このSIBAMを手がかりとして進行します。 

一般的に、SE™の書籍やトレーニングではBehaviorは【行動】と訳されます。たとえば、ぎゅっと拳をにぎるとか、ひゅっと息をつめるとか、虚空を睨むとか、肩を強張らせるといった、クライアントさんが表現する【動き】の全般です。

それを踏まえて、生物学でのBehaviorの扱いを想像してみましょう。

生物学で見ているものは個体とは限りません。細胞や器官なども、それぞれに何らかの【ふるまい】を見せています。それは【行動】でも【動き】でもないかもしれません。応答や反応を示してはいますが、そこに主体性や意識や筋骨格系の物理的な動きが伴っているとは言えません。つまり、生物学で言うところのふるまいとは、【動き】や【行動】よりももっと広義であると言えます。

とすると、生物物理学を修めたピーターはBehaviorをどんな意味で使ったのでしょうか。

身体に閉じ込められたトラウマ』の中でピーターは、「最も意識的な自発的運動から、最も無意識的な不随意パターンまで、さまざまな認識レベル下で生じる」と書いています。

トラウマと記憶』からも、一部抜粋してみます。Behaviorとは、

☑ジェスチャー
☑感情・表情
☑姿勢
☑脈拍・呼吸など自律神経系の変化
☑内臓の動き(音)
☑原型的な行為

であると書かれています。ここでは明確に、クライアントの無意識下の反応や、筋骨格系の明確な動きを“伴わない”反応が含まれていることが確認できます。

日本語で【行動】【動き】と聞くと、筋骨格系や意識や主体性が伴うような印象を抱きます。でも、明らかにピーターはそのような狭義の意味では使っていません。もし単純に【行動】や【動き】だけを指したかったならば、Behaviorでなくても他に言葉はいくらでも選べたはずなのです。

改めてSIBAMを訳し直して並べてみることにします。

Sensation 内受容感覚
Image 体外由来の感覚すべて
Behavior 神経系のふるまい
Affect 情動や感情
Meaning 早計な認知、信念、意味づけ
(『身体に閉じ込められたトラウマ』参照)

いかがでしょうか。おそらく、この整理のほうが生体の全体性を捉えやすいのではないでしょうか。

私見ですが、ピーターは、セラピストがセッションで扱いやすい柱をまとめるために、あえてSIBAMという枠組みを採用したのではないかと思います。著書を読むと、それぞれの語が狭義に理解されるリスクも承知していたことがうかがえますから。さらに、日本語に翻訳される段階で一語を一語へ対応させる必要に迫られ、その結果、理解はさらに狭義へ収束していったのではないかと想像します。それに、初学者にとっては特に、【ふるまい】と表現されてもなかなかピンとこないですものね。

(たとえばImageについては、明らかに表象に限定しておらず、五感の全てを含むと書かれています。また、Meaningについては固定された信念に基づいており、内的体験を自他に伝えるための記述標識、と述べています。詳しくは『身体に閉じ込められたトラウマ』をご参照ください。)

(特に英語圏で、頭文字を取ってシンボル化することが好まれる傾向にある気がします。シーゲルも自身でそう公言していますし、トラウマセンシティブマインドフルネスのデイビッドはSIBAMのオマージュ的なモデルを構築しています。)

私たちはとかく言葉に引っ張られて【ふるまい】を決めてしまいます。私自身【ふるまい】という言い回しが好きで多用していますが、SE™におけるBehaviorとは結びつけて考えていなかった気がします。そのために、クライアントさんが見せる【ふるまい】を狭く捉えていたかも知れません。

「SIBAMの中でセラピストが観察できるのはBehaviorだけだ」、とピーターは言っています。つまりこのBehaviorの扱いこそ、おそらくセラピストの腕の見せ所であり、もっとも個性が表れるところであり、それゆえセラピストにとって深め甲斐のあるところなのでしょう。ピーターはクライアントさんの上記のようなふるまいを観察していると書いていますが、人間の感覚というのはそもそも5つだけでもないでしょうし、その範囲も人によって違うはずですから。
(たとえばシッダールタ・ムカジーの『細胞 生命と医療の本質を探る』には、匂いで病気のあたりをつけられる友人医師が登場します。)

─セラピストの全体をつかって、クライアントさんの全体をとらえる─それでこそ、協働調整の質が担保されることでしょう。

Behaviorをどこまで広く受け取るかによって、セラピストが観察できる対象も変わります。 セラピストが自らの言葉の定義を見直し、得意な感覚のチャンネルを磨くだけでも、そこに近づくことはできそうです。

※私がここで上げているピーターの書籍はいずれも邦訳版です。
※感覚もまた、通常思い浮かべる内容よりももっと広義だと思われます。詳しくはこちらのコラムをご参照ください。

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