HPA軸とかmTBIとか下垂体とか

身体指向の心理療法

以前にHPA軸について書きました。→https://wholesome.blog/no-12/

今日はそのコラムをかんたんに振り返りながら、もう少し深めてみたいと思います。

私たちがワクワクしたりがんばったり逃げたり怒ったりする時、身体には様々なホルモンが巡っています。遭遇した出来事がラッキーなのかアンラッキーなのかに関わりなく、そういう活性化した状態を、私たちはまとめてストレスと呼んでいるんですね。

ストレス対処のホルモンとして代表的なのが【アドレナリン】と【コルチゾール】です。

アドレナリンはSAM軸が機能することで分泌されます。SAMというのは、
視床下部・交感神経・副腎髄質
のことを指しています。

アドレナリンを出しても状況が落ち着かなければ、HPA軸が対処を引き継ぎます。HPAというのは、
視床下部・下垂体・副腎皮質
のことを指しています。

SAMのアドレナリンは短期決戦、HPAのコルチゾールは持久戦、みたいなイメージですね。(超単純化しています)

コルチゾールはストレスに対処するだけではなくて、病気に対処したり、朝目覚めて夜眠るというサイクルを回すのにも重要です。ただし、コルチゾールはステロイドホルモンなんです。ステロイドを含んだ薬はとても効果が高いですが、「処方された時に用法用量を守るようにかなり丁寧な指導があったな」と記憶している方も多いでしょう。

ステロイドホルモンでもあるコルチゾールは、さっと分泌されて、用が済んだらさっと止まる、というのが理想なんです。もしストレス状態が長引いてしまうとコルチゾールは自分の身体を傷つけるようになってしまいますし、そこからさらに事態が進むとHPAの連携が乱れて、コルチゾールの分泌が極端に減ってしまうことになるんです。

では、そもそもHPAって体のどこにあるんでしょうか?どんな形をしているのでしょうか?(このコラムのイラストはすべてMSDマニュアル家庭版から拝借しました)

下の図の通り、視床下部と下垂体は脳の中、目の奥のあたりに位置しています。

副腎は左右の腎臓の上にかぶさるような位置にあって、へこんだあんパンのような形をしています。おおよそ肋骨の一番下のあたりです。

このあんパンの「あんこ」部分から出るのがアドレナリン、「パン」の部分から出るのがコルチゾールです。

少しマニアックですが、この腎臓や副腎は大腰筋の筋膜に接しています。大腰筋が緊張して動きが悪いと腎臓や副腎に影響しますし、その逆にストレスで腎臓や副腎に過剰な負荷がかかると大腰筋にも余波が及びます。腰痛の原因のひとつは、この遊走する腎臓であると言われています。

さて、ここからさらにマニアックになります。なおかつ、おおいに私見が含まれることをご承知おきください。まずは、下垂体の形状と分泌しているホルモンを確認します。

さて。この図をご覧になってお分かりの通り、下垂体は様々なホルモンを分泌していて、非常に特殊な形状をしています。もともと門脈(静脈血)で栄養されている上、この特殊な形状のために非常に脆弱です。

加えて、外的な衝撃にも非常に弱いようで、診断こそつかないものの、下垂体機能に不調をきたしている人は多いようなのです※1 ②山口p.9, p.36

これらのことは先日ご紹介したmTBIにもつながりますが、私個人的にはトラウマとの関係も見逃せないのではないかと考えています。頸部より下に加わった衝撃によってもmTBI(あるいはmTBI様の症状)が生じる※2 ②山口pp.12-14のならば、また、そこに神経線維の剪断が関係するのならば、構造的に脆弱な下垂体への影響は考慮しておかなければならないのではないでしょうか。

トラウマの影響は累積していくことが知られていますが、脳への衝撃もまた累積するようです※3 ①石橋p.49, ③。身体的虐待、性暴力、自傷や加害、ハイリスクなレジャーやスポーツなどによって既に基盤を脅かされていた脳に加わった衝撃は、「+1」ではなく「+2」や「+3」のショックを残す可能性があるのだと思われます。

ここで、HPA軸に話を戻します。下垂体がどれほど多くのホルモンを分泌していたか、思い出してみてください。

HPAは軸であって、視床下部と下垂体と副腎が連携して機能しています。そうであるならば、それらのひとつ、下垂体が不調に陥ることはHPA軸全体の不調を意味します。副腎疲労という言葉がありますが、概日リズムや免疫力の低下をきたしている状態は「脳」(視床下部・下垂体)の機能低下と呼んだほうが正確なのでしょう。

余談ですが、mTBIは女性のほうが男性よりも多いそうで、その理由はわかっていないそうです※4 ②山口p.5。ただ、女性ホルモンとのかかわりは研究がいくつか見つかりましたので、今後の発展が待たれます。なにせ、CPTSDも女性のほうが有病率は高いですのでね。(ご興味のある方は文献にあたってみてください。かなり気になる研究結果が散見されます。)

突然の追突事故では頸椎に伸長する力が作用して、計算上5cmも長くなるのだそうです※5 ①石橋p.58。その数字にも驚かされますが、だからといって私は、3cmの伸長だから影響は無いとか、大きな事故はこの1回だけだから影響は限られるとか、線引きすることは難しかろうとも思っています。トラウマ症状としてなじみのある易疲労感や感覚異常などが顕著な場合であっても、脳の器質的な傷害も並行して検討しなければならないでしょう。(当然、リファーや連携を含めて、ですね)

すこし調べてみましたが、mTBIに対してはまだ決め手となる治療法はないようです(ただし、トラウマについては最近こんな研究成果が発表されました→https://www.kyushu-u.ac.jp/ja/researches/view/944/)。

診断名にこだわったり適用範囲を広げすぎたりすることの功罪も考えなくてはいけないと思いますが、こうした下垂体への影響や外傷の広範な影響にも配慮して、啓発や予防、治療やケアが提供されていくように働きかけていくことが求められていると思います。

HPA軸とトラウマの関わりについては
Burke Harris『小児期トラウマと闘うツール』に易しく解説されています。
詳しく知りたい方は
Kain & Terrell『レジリエンスを育む』もおすすめです。

むちうち、脳震盪、mTBIについては、
津田真人さんのコラム
映画コンカッション
下記のTEDなどからお入りになるとわかりやすいと思います。

詳しくは下記もご参照ください。
①石橋徹『軽度外傷性脳損傷』https://amzn.asia/d/faE2fcs
②山口研一郎『見えない脳損傷MTBI』https://amzn.asia/d/8VXAgFt
③最近の研究では接触を伴うスポーツのダメージが蓄積することが新しいツールによって視覚化できたそうです。https://nyulangone.org/news/new-tool-may-help-spot-invisible-brain-damage-college-athletes?fbclid=IwAR09vsloUqIXBLaok2S1E7HvUAW7gy2NyeFx55hV282QbSbsO6LMcCvVGwg

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