「トリガーのないフラッシュバック(や解離)ってありますか?」と聞かれることは多いです。
本を読んでも、検索しても、明確なトリガーがあるタイプのフラッシュバックや解離について書かれたものが目立ちますよね。でも、いきなり突き飛ばされるようにして不調に陥る方は多くて、珍しいものではないと思います。中には、「トラウマと言えるほどの体験をしてないはずなのに」「親との間には良い思い出しかないのに」調子がすぐれないとおっしゃる方も。
予兆もなく凄まじいネガティブに陥ったり。いつも通りに過ごしていたのに、急に動悸がしてパニックになったり。さして動いてもいないのに身体が鉛のように重たくなったり。
まずは、そういう不意打ち型の不調に見舞われているのはご自分だけではない、ということを知ってください。
同時に、何もかもトラウマに帰結させてしまうこともまた、しんどさの中核を見失わせます。
子どもの頃のケガが原因で姿勢が変わってしまったのが始まりかもしれませんし、偏った食事が災いしているかもしれませんし、神経系の入力と出力のバランスが良くないためかもしれません。
原因を突き止めたくなる衝動もまたトラウマ反応かもしれないのだと、心に留めておいてください。
それから、赤ちゃん期など、視覚や認知の機能が仕上がる前の逆境体験は特に、大人になってから理解しづらい影響を残しがちです。他人といるのもひとりでにいるのも苦痛だとか、険悪な空気も優しい雰囲気もどっちも嫌だとか、トリガーが日常生活の全般に広がってしまったりもします。このような神経系の基盤に由来する不調は、「無くす」よりも「創る」「調整力を養う」マインドのほうがうまく対応できます。
ちなみにですが、マウスの実験で恐怖体験と結びついた臭いの記憶は3代経ても維持されていたそうです(参考に→https://gendai.media/articles/-/95865?page=2)。
人間がまったく同様だとは思えませんが、私としては本人にまったく記憶がない体験が不快感と結びついている可能性は否定できないと考えます。
杉山登志郎先生は、トラウマの臨床でドタキャンやドタカムがとても多い点について繰り返し言及されています。これは、解離のせいで記憶が飛ぶとか、いざ良くなってくると不安が高まるとかの、よくある原因の場合ももちろんあると思います。ただ、セッションが進んできてからも、先々の体調が読めないために、心待ちにしていた約束を反故にしなければならない人も実は多いのです。
トラウマ症状には【フラッシュバック】とともに【回避】というものが定義されています。つまりは、何もかも上手く回避できないからこそフラッシュバックは起きてくるとも言えるでしょう。ですので、事故にあった場所に近づかないとか、被害にあったときの服を着ないとかいう、手の及ぶ範囲の回避だけでは避けきれなくて、だからといって避けるものを増やすほどに影響が大きくなってくるのがフラッシュバックなんですよね。それは解離も同じです。
トリガーが見つからないならば、原因を探すことをいったん止めて、いざ不調に陥った時の【対処法】をストックする方向にシフトしてみませんか?不調を防ぐことはできなくても、対処ができれば自己効力感は大きく損なわれません。鍵は覚醒度です。(覚醒度については→https://wholesome.blog/no-9/)
興奮してイライラドキドキしたら、落ち着いていく方向へ。
疲れたり落ち込んだりしてダウナーが強くなったら少しドライブをかけてあげる方向へ。
ブレーキとアクセルの両方が強すぎるなら、いったんどちらも休める方向へ。
何をやっても残るしんどさは、抱えていられる力をつけよう、というマインドセットへ。
それでも手に余る分は、誰かに一緒に持ってもらえる方法を探すほうへ。
みたいな感じで。
天気・食事・月経・気分など日々の記録をつけておくと、トリガーはわからなくてもご自身の傾向をつかむのには大いに役立ちます。今は優秀なアプリもいろいろ出ているので、続けられそうなものを探してみてください。
もうひとつ。不調のとき、フラッシュバックなどの過覚醒に傾きがちな方は覚醒度を下げる方法を、解離などの低覚醒に傾きがちな方は覚醒度を上げる方法を、なるべくたくさんストックしてみてください。
以前に書いたコラムを貼っておきます。
https://x.com/wholesome_flow/status/1695006677748400628?t=cznER4DQXtpy1FvvZ9p4GA&s=19
それから、この本↓にはトリガーかわかりづらいフラッシュバックとはどのようなものか、服部先生のお考えが書かれています。対処法も参考になります。
『今すぐできる心の守りかた フラッシュバック・ケア』 https://amzn.asia/d/7YDAEzO
「トリガーが無ければトラウマじゃないのかも」「トラウマじゃないのに苦しいのはただの甘えかも」と、ご自分を責めてしまう方も多くいらっしゃいます。
でも、トラウマであろうがなかろうが、苦しいものは苦しく、つらいものはつらいのですから、ご自身のその苦しさ・つらさを許してあげてください。原因が何であれ、不調の時に助けを求めるのは、誰もが等しく持っている権利です。
合理的な解釈や予防が難しい不調もあるものです。そして、不調な時があっても、原因を突き止められなくても、生き物はその不調を手なづけながら生きていけるのです。