トラウマについてNo.1 トラウマとPTSDと複雑性PTSD

トラウマについて

2021年、複雑性PTSDという言葉が話題になったのを覚えてらっしゃるでしょうか。一時期、各分野の専門家に留まらず、一般の方も巻き込んだ社会現象のようになりました。議論をよんだ大きな理由のひとつは、複雑性PTSDという病気の定義のわかりにくさにあったように感じます。

複雑性PTSDの診断基準(ICD-11による)を大雑把に紹介すると、

[再体験やフラッシュバック][被害に関係したものを回避する][過覚醒]というPTSD症状が出ており、なおかつ、

幼少期のトラウマ体験に起因する[感情調節困難][否定的な自己概念][対人関係困難]があること、です。

ここまで読まれて、私もそういうところあるなぁ、と思った方。
ですよね、ありますよね、こういうこと。

でも、複雑性PTSDの診断基準を満たすには、この6つ全部を満たさないといけないのです。しかも、極度の脅威や恐怖を伴う体験であることが前提なので、命が脅かされたような場合以外はまず認められません。さらに、PTSDと複雑性PTSDは同時に診断が下ることはありません。

イラストにするとこんな感じでしょうか。(私の個人的な解釈で描いてます)

要は、PTSDとか複雑性PTSDと診断される範囲がとても小さいということです。しかも、精神疾患にはこれとは別にもう1つスタンダードな診断基準があって(DSM-Ⅴといいます)、この2つは内容が微妙に違っているのです。複雑性PTSDを含んだ基準(ICD-11)がはじめて発効したのは今年(2022年)で、ここまで辿り着くのにも専門家の間で何十年にもわたる紆余曲折がありました。ですから、医療界での診断基準はまだ変化の途上ですし、専門家の解釈もまちまちです。

愛着障害や発達障害という言葉についても言えることですが、専門家ですら判断に迷うような診断名を使って他人にレッテルを貼るなどということは許されません。ただし、本人が「自分のしんどさの根っこには小さいころの体験が影響していそうだ」と考えたり、SOSを発信したりすることは当然の権利です。困難なことの多い子ども時代を生きた人にとって、そうした権利を取り戻していくことは診断が下るかどうか以上に大事なのではないかと思っています。

ところで、『PTSD』と似た言葉で『トラウマ』ってありますね。これは、とてもショックな出来事やそのショックな出来事によって引き起こされる色々な症状全体を指す一般用語としてもだいぶ広がってきました。この言葉の方が使い勝手がいいので、この後のコラムでは主にこの『トラウマ』という言葉を使っていきますね。

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