トラウマについてNo.10 私たちの覚醒度②

トラウマについて

イメージしやすいように、ここでまた例え話です。

ある日あなたは上司に呼ばれ、「君が希望していたポストにつけるように推薦しておいたからね、がんばって」と言われました。突然のことで驚いたあなたは取り乱しましたが、やりたかった仕事に打ち込めることをとても誇らしく思いました。

でも、デスクに戻っていつもの仕事をこなそうとしますが、まったく集中できません。あまりにもミスが多いので気持ちがふさいできて、こんな自分に新しい仕事なんて務まるんだろうかと、自信がなくなってきます。

その日の仕事が終わると、あなたの様子を心配した同僚がそばに来て「なにかあったの?」と声をかけてくれました。この同僚を信頼していたあなたは、昇進の話や自信が持てないでいることを話しました。

すると同僚は、「おめでとう、上司はあなたの良いところも足りないところも全部わかった上で推薦してくれたんだよ、あなたなら大丈夫。」と言ってくれました。それを聞いているうちに落ち着いてきたあなたは、涙がにじんでくるのを感じました。

さて、この例え話の場合、いい知らせですよね。でも、刺激を受けるという意味で言えば、いいとか悪いとかは関係がありません。良いことも悪いことも、同じように神経系には負荷がかかるのです。

昇進の話を聞いて我を失っていた状態は、耐性の窓を突き抜けて過覚醒になっていたと言えます。そこからしばらく過覚醒は続き、ケアレスミスを連発したことで気持ちが沈んで低覚醒に移行しています。そのあと、同僚と話すうちに平常運転できるまでに覚醒度は落ち着いてきて、耐性の窓の中に戻っていますね。

例え話の最後、涙がにじんでいますが、これは同僚の言葉に感動した、というだけではありません。緊張を手放す時に、涙や汗やげっぷやあくびや汗や咳が出ることがあります。身体が熱くなったり、ふるえたり、トイレに行きたくなったりすることもあります。

この例の場合、あなたにはしなやかに回復できる力があり、あなたの気持ちを汲んでくれるサポートもあったので、すんなりと耐性の窓の中に戻ることができました。でも、元々耐性の窓がとても小さかったり、何度も耐性の窓を突き破るような体験が続いたり、適切なサポートを得られないことが続くと、なかなか窓の中に戻れなくなります。すると、ずっと過覚醒だったり、ずっと低覚醒だったり、過覚醒と低覚醒を繰り返したり、ブレーキとアクセルを両方踏んでいるような状態になってしまったりします。

耐性の窓の中に戻れないと、いつもイライラしていたり、身体を壊すほど仕事に没頭したり、強い疲労感で動けなくなったり、気持ちがふさいで何も興味が持てなくなったり、そわそわして強い不安に襲われたり、記憶が飛んだりするようになります。その状態はとても苦痛なので、ゲームやコーヒーやアルコールや市販薬などで自己治療する人も出てきます。

加えて、幼少期に繰り返しトラウマを体験した人の場合はそもそもこの耐性の窓がとても小さいと言われています。そうした場合には、覚醒度合を正常化するというよりも、調整力を養って新しい生き方を創造していくようなアプローチが効果的を発揮します。

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